葉ちらしの風
幼稚園の園庭にある
大きな大きな銀杏の木。
以前はそれこそ、園庭と道との境目に
何本も何本も植えられていて
今時分になると
それはそれは見事な光景を描き出していたというのに。
近所の戸建に住んでいたおじいさんが亡くなって
その息子がその土地を売り
そこが高層マンションになって
周辺にあったいくつかのコインパーキングも
いつの間にか、大きなマンションに建て替えられて
近所に住む人たちが、一気に増えた。
そこで生まれた子どもたちが大きくなって
幼稚園に通うようになると
親たちが、銀杏の落ち葉を嫌がるようになり
ぎんなんの実に顔をしかめ
とうとう、1本を除いて
全て切り倒されることになったのだ。
「後から来たくせに。
あの若けぇモンたちが
落ち葉が汚ねーだの、ぎんなんが臭ぇーだの
うるせぇ~んだよ!」と
地主のオヤジが呟いた。
幼稚園の園庭には、雌雄それぞれの銀杏の木があったので
時期になると、木の上からどんどんぎんなんが落ちてきて
近所の人たちはバケツを手に
いそいそと拾いに行く姿を
私もちょくちょく目にしていた。
道に降り積もる銀杏の落ち葉も
こんなものではなかった。
もっともっと、ふわふわで
地面なんて見えなかったもの。
と・・・
急にビル風が吹いてきて
足元から風が上に舞い上がった!
まるで私がこれから歩く道を空けるように
落ち葉たちは、道の両側に寄せられていく。
何かに呼び止められた気がして
一瞬だけ、先を急ぐ足を止めてみた。
もうじき、親友の命日がやってくる。
あまりにも早く、あまりにも突然のことだったので
ありがとうさえも言えなかった。
彼女の子らは、どうしているだろう、と
12月の風を感じるたびに、ふと、思い出す。