風のつばさ

思いのままに吹く風に乗って、今日はどこに飛んで行こう♪

春の、夕暮れ

春の日の夕暮  中原中也

トタンがセンベイ食べて
春の日の夕暮は穏かです
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は静かです

吁(ああ)! 案山子(かかし)はないか――あるまい
馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい
ただただ月の光のヌメランとするままに
従順なのは 春の日の夕暮か

ポトホトと野の中に伽藍(がらん)は紅(あか)く
荷馬車の車輪 油を失い
私が歴史的現在に物を云(い)えば
嘲(あざけ)る嘲る 空と山とが

瓦が一枚 はぐれました
これから春の日の夕暮は
無言(むごん)ながら 前進します
自(みずか)らの 静脈管の中へです

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中原中也の詩に、初めて出会ったのは
中学2年生の時だった。

こちらもちょうど多感なお年頃。
目に見える実在するものの中に
何か目に見えないものが潜んでいるように思えて

しかも、それらがひとつひとつ
人格を持っている様に思えたのだ。

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無論、住んでいる時代も環境もまるで違うので
そこに記された光景を
実際に自分が味わうことは不可能だけれども
底辺にある、何とも不思議と湧いてくる言葉の魅力に
私は次第に魅かれて行った。


自室の窓から見渡せる、春の日の夕暮れ。

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見慣れてはいても
その光景をぼんやりと眺めていたら
ふっと、冒頭の詩が思い出され
私の知らぬ別の光景を、どこかうっとりと思い

想像の中に遊ぶ自分を楽しんでしまった。

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