夜桜
マンションに、みっちり囲まれた中にある
小さな近所の公園
普段は誰も見向きもせずに
無関心に通り過ぎていくだけ、だけど
桜が咲くと、その情景が一変する。
時期限定で、律儀にライトアップされるのを
心ひそかに狙っているのは、私だけではあるまい。
花が咲かねば
そこに「桜」があることさえ
普段は誰もが忘れているのだから。
ニンゲンなんて、全く都合がいい生き物だ、と
今年もしみじみ思いながら
夜桜を見上げてみる。
以前は、誰も座りはしない壊れかけたベンチに
ご陽気に酔いが回った御仁たちが陣取って
通行人たちに冷やかしの声をかけ、嫌がられていたものだけど
いつの頃からか、そうした人たちの姿を
一切、この街では見かけなくなってしまった。
そのかわり、今度は日本語ではない言語が
あちこちで飛び交い
スマホを手に、自撮りする人たちの大声が
周囲のマンションに、夜遅くまで反響するこの頃・・・
当然、そこに住む人たちからは
大大大苦情が湧き起こり
とうとう、パトカーまで動員される始末。
全く、コマッタモンダねぇ、と
ぽつりとつぶやきながら
枝先について揺れている桜の花を
ちょん!と、突いてみた夜
きみたちは、咲くのも早いけど
散るのも、本当に早いねぇ。